誇りをまとった人だった。
そして、このスターのファンであることを誇りに思える人だった。
パステルカラーのような柔らかさを持った素化粧の笑顔と、狂気も愛も葛藤も全ての感情を艶やかに描き出す舞台上の凄まじさ。
「より良くあろう」と自らを鍛え続け、一心に高みを目指す姿は容赦なく美しかった。
明日海りおという稀代のスターが生み出すものを同じ空間で享受できた幸せは何にも代えがたい。
同時に、宝塚の舞台でその瞬間が二度と訪れないことへの寂しさは否応なく涙腺をぎったんぎったんにいじめ抜いてくる。
ああ、もういないんですね、みりおさん。
「明日海りおだから」
成立する。
何度この言葉を聞いただろう。
「みりおさんだからできるんだよね」
他のスターを貶す意図など一切なく、ただ彼女の磨きぬいた技術と鮮やかな個性が持つ説得力に私たちは圧倒され、満たされ、3時間の夢を見た。青い薔薇の精も言わずもがなの好例だろう。
何度か「ん??」となる脚本の穴をねじ伏せるのはその存在感。日常からかけ離れたファンタジーを描くという宝塚における一つの宿命を、冷静に緻密に作り上げた芝居で果たしてきた明日海りおだから成し遂げられた舞台だった。
ふとした瞬間に浮かべるエリュの微笑みが切なさや高慢さ、短い幸福の時間とシニカルな視点を物語り、人ならざるものと人間の感情のズレ、そして共通点を見せてくれたように思う。
霧の日に、青い薔薇を見かけたときに、きっとエリュを思い出す。
私たちは枯れない薔薇を受け取ったんだ。幻の花、だから美しい。だから忘れられない。
万華鏡のような、と評した人がいた。
これでもか!ほらこれもどうぞ!こっちの明日海りおも素敵ですよ!もいっちょおまけにこんなのいかがでしょ!どんどこどん!なショー「シャルム!」
かつて宝塚幻想曲で花組はこう歌った。
どこまでも果てない空へ
怖れずに飛んでみよう
小さな翼を繋ぎ合わせても
たとえ嵐吹き荒れても
明日に 未来に 絶えない花咲かそう
あなたと花咲かせよう
そして今回。
命が尽きるときも忘れぬ 忘れはしない
あなたと咲かせた花
決して忘れはしない
いつか散りゆき土に還る
それが定めの花だから今は光浴びて美しく咲き誇ろう
共に咲き誇ろう
まさにタイトル通り「光」輝くその姿に、アンサーソングと呼ぶにはあまりに見事な旅路の終わりに、人間ってこんなに泣けるのかと思うくらいに涙が溢れた。
明日海体制になってから花組が歩んできた5年半を肯定し、昇華させる美しい場面。
組子がみんな笑顔で、その真ん中にみりおさんがいる。咲けば散る、始まれば終わる花のようなタカラジェンヌとしての時間がキラキラとした光に変わっていく。
そして継承の黒燕尾。安寿ミラという偉大なトップスターが今の花組のために作り上げた振り付けは、一つ一つが惜別と未来へのメッセージに満ちていて…凡人はただ泣くのみ。
肩に添えた手。合わせた拳。背中を押す手のひら。
触れていないのに体温が伝わる。彼女たちだけの、ファンにはきっと計り知れない思いが詰まっているはずなのに、その一端を分け与えてくれたよう。
万感のケ・サラに胸が苦しくなる。
悲しみも痛みも笑顔で隠して、この人は歌ってきたんだろう。
希望の歌を歌いながら、熱い友と明日を信じて生きてきたんだろう。
劇場を包み込む歌声が思いの外優しくて、この人を好きになれた私はなんて幸福なんだろうと静かに思った。
1年後のスカステなんて待てない自分のために、サヨナラショーの曲目をメモっておこう。
ムラの前楽後に呟いた内容が間違っててほんとすみません。
- エリザベート~愛と死の輪舞 『エリザベート~愛と死の輪舞~』
- 幻想曲 花! 『宝塚幻想曲』
- オリーブ薫る島 『カリスタの海に抱かれて』
- ただ一人の女 『新源氏物語』
- 金色の砂漠 『金色の砂漠』
- メサイア 『MESSIAH -異聞・天草四郎-』
- Exciter! 『EXCITER!』
- Melodia 『Melodia』
- 人生には恋と冒険が必要だ 『Casanova』
- 時の輪 『ポーの一族』
- お前の水車 『ポーの一族』
- Santé! 『Santé!』
- ETERNAL GARDEN TAKARAZUKA 『BEAUTIFUL GARDEN』
- Happiness~Some little things~(愛しきものに宿る幸せ) 『ハンナのお花屋さん』
- Delight Holiday 『Delight Holiday』
宝塚に出会って、「眩しくて泣く」という感情を知った。
寂しさとも悲しさとも少し違う。その人にもらった思い出が溢れて、その人を取り巻く思いが温かくて、とにかく幸せを祈って祈ってやまないような。
みんながみりおさんを好きで、みりおさんもみんなが好きで、笑顔を向け合っている。
楽しくてテンション上がって笑ってるのに涙が頬を伝ってくる。映画館で小さく手拍子をしながら少しも見逃すまいと必死に目を見開いた。
下級生の頃、ぷっくりほっぺを少しでもシュッと見せようとシャドーを入れまくった結果、観劇にきた同期に「ほっぺたにすごい焼き芋みたいなの付いてたよ」と言われて落ち込んだ可愛いみりおちゃんが、大きく大きく育って0番で踊っている。
歌が苦手で、喉を潰したこともあって、たくさんのダメ出しに苦しんで苦しんで努力と根性で今の歌声を手に入れたみりおさんが紡ぐメロディーで、客席が沸き、ときめき、泣いている。
自分の夢だったとはいえ、その華奢な体にどれだけ大羽根は重かったことだろう。伝統の花組、26人の歴代トップスターさん、80人の組子を背負って走りぬいた時間の最後の輝きはもう、なんか、もう。言葉にできるようなものじゃない。もう。ああ、もう。
好きですよ、あなたの言葉が。
私にとって明日海りおとは、何を考えているかわからない人だった。
みりおさんにしか見えていない世界があって次元の違うところで時間を紡いでいるような感覚。その世界を伝えようとする言葉が、よく分からないのになんかすごく分かる。
サンドウィッチマンでも「ちょっと何言ってるか分からない」とは軽々に言えないはず。だってなんか分かるもん。
語彙力ゼロ人間からしてみればそのセンスが羨ましくて仕方ない。羨ましいと思うことすらおこがましい。細胞分裂からやり直したい。
発する言葉が伴う責任を痛いほど理解している聡明さと、受け取る側の心を慮る優しさが、もはや名物となっているあの名?迷?挨拶の数々を生み出したんだと思う。
研2だか研3だった珠城のりょうちゃんが新公の衣装合わせに寝坊して遅刻してしまったとき。 上級生やスタッフさんに謝って謝って謝り倒した後も落ち込んで暗い顔をしていたたまきちに「大丈夫?起きたら時間だったの?びっくりしたね」と声をかけたみりおさん。その優しさに泣きじゃくってしまったたまきち。
運動会で惨敗の中の惨敗を喫した花組生を元気付けるため、だいもんと二人で楽屋のお風呂を飾り付け、温泉の素を入れ、効能書きを書いて、冷たいドリンクを用意し、「いい湯だな」を録音して流した花組温泉を作ったみりおさん。トートとルキーニの優しさに目頭が熱くなった組長さん。
事欠かない愛おしいエピソードの数々が次から次に思い出される。
その端々に見える優しさが、とてもとても好きだ。
3月に退団を発表してから今までに「こんなに宝塚が好きなのに、どうしてやめることにしたんだろう。一生男役をやっていればよかった」と何度も思ってしまいました。
たった一度きりの人生の中でそこまで夢中になるものに出会えて、それを17年間続けてこられたことは私の人生の一番の奇跡だと思います。
宝塚に全てを捧げました。男役として生きることに自分自身を懸けてきました。
こんな調子で続けていたら終わる頃には身も心も削げに削げて消えてなくなってしまうんじゃないかと思ってきました。ですが、全てをやり遂げた今も割と元気に、身も心も以前よりふくよかにここに立っております。
きっとそれは私が宝塚に捧げた以上にたくさんの方が愛してきてくださったからだと思います。
12時こえてしまったらタカラジェンヌじゃなくなってしまうので、いっそ今!今!消えてなくなってしまいたい!と思うほど宝塚が大好きです。
内に秘めた熱さと強さに無意識に引っ張られて、みりおさんが作りたいものをファンみんなで追いかけていたような気分だ。
全て捧げた、と言い切った瞬間の神々しさが忘れられない。眩しかった。
晴れでも、雨でも、明日はいい日
常に「次の明日海りお」が楽しみだった。自分を追い込み仲間と手を取り合って、妥協なく厳しく表現と向き合い、私たちの期待を超えるものを必ず生み出してきた人だから。
「次はこんな役だね」「絶対素敵だね」「いっぱい見に行こうね!」
いつも交わしてきた会話が、宝塚ではもうできないんだ。実感がない。全然ない。
この夢は覚めないと頭のどこかで思っていたんだろう。
でも夢の名残を私たちの胸に残して、彼女は「新しい明日海りお」を作りに歩いていってしまった。
「宝塚に明日海りおがいる」という当たり前だった日常が、過去になってしまった。
そして柚香光という、これまたスター街道大爆進のキラッキラなトップスターが生まれた。
新しい1ページ。門出の日。おめでとうれいちゃん。本当におめでとう。楽しみにしてるよ!
見せてくれた夢、残してくれた夢、継いでくれた夢に心から心から感謝している。
ハワイとか行って、やりたかったこと全部できますように。
おこげちゃんを思う存分もふもふできますように。
会いたかった人に会って、食べたかったもの食べて、楽しいことに巡り会えますように。
みりおさんのこれからの人生に幸せがいっぱい降り注ぎますように。
受け取れよ!感謝の気持ち!!!
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宝塚に入ってくれてありがとう。男役を続けてくれてありがとう。